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2005年01月27日

暗闇への跳躍とオンライン・コミュニケーション

■暗闇への跳躍

柄谷行人「探究1」P50-より引用。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061590154/daiya0b-22/

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私はここでくりかえしていう。「意味している」ことが、そのような《他者》にとって、成立するとき、まさにそのかぎりにおいてのみ、”文脈”があり、また”言語ゲーム”が成立する。なぜいかにして「意味している」ことが成立するかは、ついにわからない。だが、成立したあとでは、なぜいかにしてかを説明できる。---規則、コード、差異体系、などによって。いいかえれば、哲学であれ、言語学であれ、経済学であれ、それらが出立するのは、この「暗闇の中での跳躍」(クリプキ)または「命がけの跳躍」(マルクス)のあとにすぎない。規則はあとから見出されるのだ。

この跳躍はそのつど盲目的であって、そこにこそ神秘がある。われわれが社会的・実践的とよぶものは、いいかえれば、この無根拠的な危うさにかかわっている。そしてわれわれが《他者》とよぶものは、コミュニケーション・交換における危うさを露出させるような他者でなければならない

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情報や知識を他人と交換しようとして対話を始めるとき、私たちは、相手に分かってもらえるかどうか、事前には知りえない。とりあえず、話してみた結果、分かってもらえたり、そうでなかったりするのだ。文章やことばの分かりやすさ以前に、ことばの命をかけた跳躍というプロセスが存在している。

■文脈レス・コミュニケーション

インターネットは、跳躍の垣根を低くした。経営トップや著名人にもメールを直接、送ることができるし、Webやメールマガジンなど発言の場所もある。しかし、情報の発信(一方的に跳ぶこと)は容易になったけれど、コミュニケーションの跳躍の深刻さはそのままだ。Webやメールでこうして私が書いている文章だって、本当に相手に理解されるかどうかは分からない。

インターネットにおけるコミュニケーションの難しさは、私の文脈が、読者の文脈とはまるで次元の異なるものであるということだ。家族の団欒、書籍での執筆、会議でのプレゼン、講演会であれば、少なくとも文脈は共有されている。これに対して、Googleで検索されて偶然発見されたページは、文脈共有の保証がない。

時間軸もそうだ。ネット上の、そのデジタル文書が、3年前に書かれたのか、昨日書かれたのか、必ずしも分からないし、新旧のものが混在している。日本語の場合には日本人が書いたということが分かるのがせめてもの救いだが、英語文書では実際複雑である。

そもそもデジタル文書は書き手さえ保証がない。目の前で話された言葉や、直筆の手紙と違って、本当にその人物が書いたのか、確認できないことが多い。ひょっとして機械が書いたのではないかと疑うことさえできる。

また、書き手のリテラシーも一律ではないから、個人のWebサイトなどでは特に、引用や翻案の出典などが明記されていないことが多い。ソースを探すのにまた一苦労する。

要は、安易に行われる無数の暗闇への跳躍のログが、文脈レスな文書を大量発生しているのだ。私はネットで調べ物をして物を書くことが多いので、こういった文書と対話する機会が多い。検索エンジンのデータベースの拡大に比例して、文脈不明の文書との対話回数が最近、増えているなあと感じる。

■跳躍の文脈をみつけるデジタルテクノロジー

そろそろ、跳躍の文脈や意図、深刻さをデジタル文書も持つべきだと思う。例えば、こんなメタデータのテクノロジーである。

・電子署名(著者の手によることの確認)
・レイティング情報(第三者評価)
・著作者情報(書いた文脈)
・文書自体の履歴(古さ、複製移動など流通履歴)

例えばユニークなものだけ幾つか紹介すると、

・インターフェイスの街角(67) Web ページの鮮度を視覚化する
http://pitecan.com/UnixMagazine/PDF/if0308.pdf
古いホームページは見た目が劣化してセピア色になるなど。

・history flow
http://www.research.ibm.com/history/
文書の変更履歴を視覚化する。誰がどのように変更してきたかを一目瞭然にする。

・自筆フォントMyFont(テクノアドバンス)
http://www.techno-advance.co.jp/
自筆フォントを作成してくれるテクノアドバンスのMyFontは、指定された用紙に200文字程度の文字を書いて郵送すると、その筆跡パターンから4000文字分のフォントを合成して、PCで使えるフォントファイルを作成してくれる。

・NEC SiteSeer
http://citeseer.nj.nec.com/cs
海外研究論文サーチ。相互の論文参照関係が分かるのが特徴。

■想いの強さを理解する未来の技術

しかし、メタデータをどんなに充実させたところで、「暗闇への跳躍」が本来は、生死の問題に関わるという根幹は変わらない。ワープロの時代と毛筆の時代では、きっと書くことの重さが変わっている。私たちは簡単にメールを書き、文書を発表している。送信ボタンひとつでまさに、「書き飛ばし」ている。デリートキーで消せて、他の候補に変換できる軽い字を書いてしまっている。

南極観測所に送られた妻からの3文字のメッセージ「あなた」に込められた想いと、ネット上の検索結果に約15,100,000件でてきた「あなた」とではきっと重さは違うのだ。この想いの強さ、跳躍の意味を受け止めるような技術は、いつか現れるだろうか。もしそうだとしたら、大切なものをもっと早く探せるようになる、そんな気がする。


投稿者 webmaster : 2005年01月27日 14:26

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